コラム

細部へのこだわりを追求した洋服ブラシに、東京の職人魂が光る

 

東京・隅田川のほとりで100年以上続く宇野刷毛ブラシ製作所。時代の流れの中で刷毛作りの技術を生かし、ブラシの製造も始めました。なかでも、大量生産・大量消費の時代において、耐久性がありきめ細やかにつくられた職人のつくる手植ブラシは、国内外からも注目を集めるようになりました。

  

写真上:宇野刷毛ブラシ製作所の三代目の宇野千榮子(左)と、娘の三千代(右)。2024年11月、改装した店舗兼工房の前で。
写真上:宇野刷毛ブラシ製作所の三代目の宇野千榮子(左)と、娘の三千代(右)。2024年11月、改装した店舗兼工房の前で。

当社の歴史は1917年に遡ります。主として“塗る”ための道具であった刷毛を製造していた初代・宇野三保司は、「使う人との接点を持つため」に昭和に入り吾嬬町(現 京島)から現在の場所に移り店を構えました。大通りに面したお店ではお客様も次第に増えていき、お客様の要望に合わせ、次第に新たな刷毛づくりも始まりました。道具は時代とともに変わり、また道具をつくる人は使う人の要望に応えていくことで新たな商品が生まれてきたのです。

そして、時代とともに次第に西洋から伝わったとされるブラシを求める人も多くなっていました。初代の三保司は職人の育成にも力を注ぐ一方、時代の移り変わりを自身が感じていたこともあり、刷毛に加えてブラシづくりも行うようになっていきました。

三保司の娘として育った千榮子は家業である刷毛とブラシづくりを行いながらともにその時代を過ごしてきました。

高度経済成長時代には産業機械が普及し、二代目・雄三の代には、工業用ブラシの需要が増大しました。その雄三が病に倒れたのを機に雄三の娘の三千代が仕事を手伝うようになり、三千代は父と母に教わりながら仕事をしているうちに家業を継ごうと決意。千榮子が三代目を継ぎ、三千代とともに刷毛とブラシの技術を守り続け、現在に至っています。

 

写真上:一連の作業を正確かつスピーディに制作できるようになるには、10年程の月日がかかるそうです。

   

今の時代に求められるブラシとは?

三千代は家業に入り一つひとつ自分で仕事をしていくうちに、次第に「使う人が必要とする魅力あるものをつくりたい」と思うように。先ずは、製品ラインナップとして肌質、素材に応じて毛のバリエーションを用意し、それぞれに合ったものを選べるようにしました。

自店舗から百貨店などへの出店を行うようになり、また次第に海外に向けた取り組み等も積極的に行いました。オンラインショップも整えたことで一般販売も拡充していき次第に認知度も高まり、ファンも増えていきました。

また、新商品開発なども行い、今では仕舞うのではなく飾りながら使うインテリアとしてのブラシの製造にも着手。置物として気に入ってもらえたり、長く愛用してもらえたり、ブラシを使うきっかけになってもらえたり、次へと繋げていける商品づくりを目指しました。

写真上:手の感触を頼りに毛束を均等に取り、ワイヤに挟んでいきます。用途に応じて毛質を変えながら微調整します。

 

細やかに毛質を使い分ける

宇野刷毛ブラシ製作所が手掛ける手植ブラシは木地と天然毛、ステンレスワイヤで作られています。木地に錐で穴を空け、二つ折りにしたワイヤを穴に通し、そこに毛束を通して一つづつ台座に植え込んでいきます。穴の間隔や毛の種類・太さ・長さを考えた商品づくりが行えるのは手仕事だからこそ。ウマ、ブタ、ヤギ、イノシシなどの天然素材を用途に応じて使い分け、最良の効果を生むよう緻密に考えてつくられています。

なかでも「欅シリーズ 洋服ブラシ カシミヤ」に使っている毛は、毛材の中でも特に良質なウマの尻尾の産毛です。ウマの尻尾は太くて長い本毛と、柔らかい産毛に選別され、その産毛のみを使っています。天然毛には素材本来がもつ油分や水分が含まれているため、静電気が起きにくく、大切な衣類のお手入れにはとても向いているのです。中でも、しなやかさとコシのある馬の毛は繊維で出来ている衣類をお手入れするのには優れているといえます。

その中でも産毛は、柔らかさの中にもしっかりとしたコシがあり、しなやかなハリを併せ持つため、柔らかくてもしっかりと払うことが出来る洋服ブラシとなっています。このようにこだわりをもって一つひとつつくりあげた製品は世代を超えて共感をよび、人気商品になりました。

市場には機械製のブラシも多く出回っていますが、ひと穴ごとに毛を埋め込む機械植えと違い、ステンレスワイヤで固定した手植えは毛が抜けにくく、密度のあるしっかりとしたブラシできるのが特徴です。

  

写真上:仕上げはハサミで丁寧に整えていきます。

  

技術の粋を尽くした洋服ブラシ

宇野刷毛ブラシ製作所のブラシは一つひとつが緻密に考えられてつくられているため、洋服ブラシも布地に合わせて毛質を使い分ければ、洋服を驚くほど美しく長持ちさせることができます。

衣類は着ているとホコリが付着したり、擦れたりします。また、静電気が起きて繊維が寄り集まって毛玉になってしまうこともあります。この毛玉は衣類の一部なので、とり続けると段々と衣類が薄くなってきてしまいます。毛玉はとるよりもブラッシングして毛玉を繊維に戻しながら、整えてあげることが理想的です。ホコリはとり、繊維が寄り集まった毛玉は衣類に戻す。これが洋服ブラシのブラッシングなのです。

洋服ブラシはお手入れする素材に合わせてお選びいただくのがベストですが、柔らかいものには柔らかい毛材の洋服ブラシを、硬いものには硬い毛材の洋服ブラシをお選びいただくと、生地に負担をかけることなく衣類をブラッシング出来ます。

宇野刷毛ブラシ製作所ではカシミヤ、ウールソフト、ウールハード、スエード、スーツ用と生地に合わせて最適な毛を選別した洋服ブラシを揃えているほか、携帯用のコンパクトサイズも展開。出先での気になるお手入れなどにも対応できます。

「欅シリーズ 洋服ブラシ カシミヤ」はとくに貴重な馬の尻尾の産毛を使用しており、柔らかさの中にもしっかりとしたコシがあり、シルクやカシミヤなど繊細な生地から素材の硬い生地まで、多岐にわたってお使いいただける製品です。またハンドル部分にもこだわり欅の木を贅沢に使用。重厚感と高級感があり、経年変化を楽しんでいただけます。

使い方の基本は、まず繊維の流れに逆らってブラッシングすることで奥に詰まった埃をかき出します。この時、ブラッシングする物に対してブラシの毛先が真っ直ぐ当たるように使用することがポイントです。 一本一本の毛先が繊維の中に入り込み、埃を掻き出し、払い、整えていきます。

次に繊維に沿って埃を払い落とし、整えるようにブラッシングすることで生地本来の風合いがよみがえります。また、絡みかけた繊維もほぐされ、毛玉ができにくくなります。大切な衣類こそ、ブラッシングすることで美しい状態のまま長持ちさせることができるのです。

大切にしたいものには末永く愛用できる製品を選んでみてはいかがでしょうか。

  

写真上:温かみのある欅の持ち手の「欅シリーズ 洋服ブラシ カシミヤ」

  

時代とともに変化を遂げてきたこの場所も、現在は東京スカイツリーを間近に望み、海外の観光客で賑わうエリアになりました。「大切なものにはいい道具をつかって長く愛用して欲しい」という思いは、国境を超えて多くの人々に届いているのではないでしょうか。

 

洋服ブラシの使い方

  

記事でご紹介した商品

欅シリーズ/Keyaki Series 洋服ブラシ カシミヤ

 

欅シリーズ 洋服ブラシ カシミヤ 大判型
欅シリーズ 洋服ブラシ カシミヤ ハンドル型
欅シリーズ 洋服ブラシ カシミヤ スリムハンドル型
欅シリーズ 洋服ブラシ カシミヤ 携帯用

 

 

江戸東京きらりプロジェクトについて

 宇野刷毛ブラシ製作所は、江戸東京の伝統ある技や老舗の産品といった「東京の宝物」に磨きをかけ、その価値と魅力を世界に発信する「江戸東京きらりプロジェクト」のモデル事業者に選定されました。