沿革と由来


刷毛の歴史は古く、「和名類聚抄」(923年)に、器や弓矢などに漆を塗るためにキビの毛が使用されたと記録され、藤原時代の「栄華物語」にも白粉刷毛が登場してきます。江戸時代中期(1732年)に発行された「万金産業袋」には、各種の刷毛の用途などが絵入りで紹介されていますが、その中で表具用糊刷毛に「江戸刷毛」の名称が付されています。これが「江戸刷毛」の由来です。「江戸刷毛」は江戸職人の心と技法をうけつぐ人達により一本一本、手作りで丹念に作られており、現在、経師刷毛・染色刷毛・人形刷毛・うるし刷毛・木版刷毛・白粉刷毛・塗装刷毛の七品目が東京都知事指定伝統工芸品になっています。

指定年月日


昭和57年2月4日

伝統的な技術・技法


1.経師刷毛、染色刷毛、人形刷毛、木版刷毛

  1. 金櫛で毛を均一に混合します。(混毛技法)
  2. 籾殻灰を使って、獣毛の火のしと、毛もみをします。(火のし、灰もみ技法)
  3. 筈刺類(切り出し状の小刀)を使って坂毛や毛先のないものを取り除きます。(ストレリ技法)
  4. 締木などを使って毛固めをし、毛と坂を重ね合わせ密着させます。

2.うるし刷毛

糊うるしを使って毛固めをし、毛と板を重ね合わせ密着させます。

伝統的に使用されてきた原材料


1.本体部分の材料は、人毛、獣毛、ツグ(ヤシ科の常緑喬木で葉柄の繊維)またはシュロを使用します。
2.柄に使用する素材は、ヒノキ、竹またはこれらと同様のものを用材とします。

江戸刷毛の種類


①経師刷毛
ふすま、掛軸、びょうぶなどを作るとき、水引き糊つけ、裏打ちなどに用いられるもので馬、鹿、狸などの毛が使われています。経師刷毛は、「ムラ塗りがでない」「腰がある」ものが使われます。一本製作するのに、20頭分ぐらいの馬の毛の中から選び出します。

  • 糊刷毛

  • 水刷毛

  • 切継ぎ刷毛

  • 棕櫚なで刷毛

  • 打刷毛

  • ドーサ刷毛

  • 中糊刷毛

  • 水糊刷毛

②染色刷毛
友禅や更紗の染色や型紙染などに用いられる丸刷毛と、伸子張や蠟描染用の引き染め刷毛の二種があります。ともに鹿の毛が使われています。これは鹿の毛がパイプのように中空になっていて、その中へ染料をよく含むこと、腰が強く毛先が柔らかな性質があるためです。

  • 引き染め刷毛

  • 丸刷毛

③人形刷毛
人形の頭(かしら)に胡粉を塗るために使用されます。人形の頭は桐の木粉を生麩で固めて型抜きしたものと瀬戸でできたものがあります。普通下塗り1回、上塗り4〜5回を繰り返し乾拭きしますとあの深みのある光沢に仕上がります。下塗り用の刷毛は腰が強く毛先の柔らかい馬の尾毛(通称:熊毛)が使われています。上塗り用の刷毛は素直で復元力のある馬の胴毛が用いられています。

  • 上塗り刷毛

  • 下塗り刷毛

④うるし刷毛
漆器などにうるしを塗るとき欠かせない用具で、ゴミ一つ刷毛むら一条許されないうるし刷毛は、人間の髪の毛、それも日本女性の長い髪の毛(30年以上乾燥させたもの)が最適です。

  • 上塗本通し

  • 立交刷毛

  • 刷毛目刷毛

  • 泡消し刷毛

  • 胴摺刷毛

⑤木版刷毛
絵の具を木版に塗るために用いられるもので、材料には馬尾毛の太い部分が使われています。更にこの毛先の部分を鮫の皮でこすり毛先を割り絵の具の含みをよくするように工夫されています。

⑥白粉刷毛
役者が扮装する際の化粧に用いられる刷毛です。また、舞踊、歌舞伎、民謡等でも同様に使われています。

⑦塗装刷毛
油性・水星塗料、ニス等で塗装する際に使われる塗装刷毛は、江戸刷毛全体の役7割を占めます。毛材に用いられるのは、馬毛(尾毛、タテ髪=フリ、胴毛、脚毛)や羊毛。その用途は壁塗り用から、橋・道路用の大きなものまで多岐にわたります。伝統的な技法を守りつつ、新しい塗料、新しい用途に対応した刷毛が開発されています。

  • 寸胴刷毛

  • 筋違刷毛